討議資料
民法等の一部を改正する法律が成立・公布されてから間もなく一年がたとうとしています(令和6年5月成立・公布)。今回の改正では、今まで離婚後の親権を「単独親権」に限っていたものが「共同親権」も選択肢に加わりました。これは、我が国における離婚後の「親子関係」にとって画期的なことです。同法は、公布から2年以内に施行される予定ですから、予定どおりであれば施行まであと1年となりました。今回の改正は、戸籍事務を扱う、また多様化する子どもの養育に関わる施策を実施する地方自治体にとっても大変重要な法改正となります。以下に改正法の内容やその影響等について考えてみます。
〇法改正の背景と課題
法改正の背景としては、父母の離婚が子の養育に与える深刻な影響や、子の養育のあり方の多様化といった現状があります。また、養育費や親子交流の取決率も履行率も低調であることから、離婚後も、父母双方が適切な形で子を養育する責任を果たすことが必要になっています。このような社会状況や課題を踏まえて、法律の改正が検討されてきました。令和3年3月には、法務大臣から法制審議会への諮問がなされ、令和6年2月には、法制審議会から法務大臣に答申がされています。これを受けて、令和6年3月に法律案が閣議決定され、令和6年5月に改正法が成立・公布されました。
〇親の責務等に関する規律を新設
改正法では、婚姻関係の有無にかかわらず父母が子に対して負う責任を明確化しています(民法817条の12)。これは、「子の健全な発達を図るため子の人格を尊重すること、父母が互いに尊重し協力すること」を含んでいます。また、親権が、子の利益のために行使されなければならないものであることが明確化されました(民法818条等)。
〇親権に関する規定の見直し
今回の法改正の最大のポイントは、離婚後の「親権」に関して、「共同親権」を認めたということです(民法819条等)。これまでは、離婚の際にどちらか一方を「親権者」に定めなければなりませんでした。これによって、「親権」を持たない親と子どもとの間に親子の断絶が出来てしまったり、そのことに起因する子どもへの多くの影響が問題とされてきました。「共同親権」を認めるかどうかは、今回の法改正の中でも多くの時間をかけて議論されてきたことです。賛成、反対様々な意見があり、「政局」のようになったときもありました。しかし、私は「親子の問題」を決して「政局」とすることがあってはならないと思います。また、極端な例を引き合いに出して是非を論じるべきでもないと思います。基本に立ち返って考えてみれば、子どもは両親がいて生まれたのであり、両親双方に愛される「権利」があるのです。子どもにとって、一方の親とのかかわりが「害」になるような「極端」な場合は別として、基本的には、子どもは両親に育てられるべきであり、両親も子どもの養育に「責任」を果たすべきではないでしょうか。改正法では、協議離婚の場合、父母の協議により父母の双方又は一方を親権者として指定することができるとしています。まず、離婚する夫婦は、「単独親権」にするか「共同親権」にするかを「協議」で決めることになります。この場合も「子どもの利益のために」にそれを決めなければなりません。もし、協議が整わない場合は、裁判所が「子の利益」の観点から父母の双方又は一方を「親権者」として指定することになります。また、子どもの利益を害する場合には「単独親権」とすることになっています。「共同親権」に否定的な方の意見として、DVなどの子どもへの虐待をあげる方がいますが、そもそも、そういった場合は「共同親権」になりません。
加えて、婚姻中を含めた親権行使に関する規定の整備も行われています(民法824条の2等)。別居夫婦のように、父母双方が「親権者」のときは、親権は共同行使するとしつつ、親権の単独行使が可能な場合を明確化しています(子の利益のために急迫の事情があるとき→DV・虐待からの避難、緊急の場合の医療等)。
〇自治体現場での様々な課題
今後、様々な「親子」関係に自治体は対応していかなければなりません。別居している父母が共同して親権を行使する場合、単独で親権を行使する場合、離婚した父母が「共同親権」である場合、離婚した父母が「単独親権」である場合など、様々な状況をシュミレーションしておかなければなりません。改正法施行まであと1年。大和市は、どの程度この問題を検討しているのか、議会でしっかり質していく必要があります。改正法施行直後は、それでも少なからず混乱することがあると思いますが、子どもへの影響が最小限となるべく、自治体としては万全の備えをしておく必要かあります。
〇今もある課題
現在、離婚した父母については「単独親権」ですが、婚姻中の別居夫婦に関しては「共同親権」です。ところが、現実問題として、「親権者」であるにも関わらず、別居している親は「親」として扱われていないケースが存在しています。DVなどの問題で裁判所から接近禁止命令が出されている場合などは別ですが、そうでない場合でも、子どもに関するさまざまなかかわりを拒否されて苦しんでいる別居親の方は少なくありません。もちろん、夫婦間の問題は複雑ですから、画一的に論じられるべきものではありません。だからこそ、個々の事例に丁寧に対応していく必要があります。そういった、「相談」は私たち「地方議員」のもとにやってきます。多くの地方議員と意見を交わす中、こういった問題に積極的にかかわっている議員が全国各地にいるということがわかりました。そこで、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地の地方議員が「超党派」で「議員連盟」を結成しました。その名も「別居・離婚後の親子関係を考える地方議員の会」です。同じく「超党派」の国会議員からなる「共同養育支援議員連盟」の方々と連携しながら、これらの問題に取り組んでいます。
〇別居・離婚後の親子関係を考える地方議員の会
の活動としては、今回の民法等改正について、「意見書」を提出するなど、法改正の実現に間接的にかかわってきました。また、共同親権や共同養育について、識者による勉強会を開催したりして研鑽を積んできました。また、全国各地の自治体の取り組みについて「意見交換」をしたり、そういった情報を基に所属する議会での「一般質問」等の機会を活用して政策提案もしてきました。今回、議連としては初めてのことですが、先進的な取り組みをしている自治体を視察し、研修を行います。内容としては、自治体が行っている親子交流支援や学校等での行事参加に関することです。子どもと別居している親にとって、子どもとの親子交流や学校等での子どもの行事に参加することは「悲願」です。こういった、子どもとのかかわりに「行政」が関わることは、夫婦(元夫婦)にとって安心の材料となるようです。自治体が夫婦(元夫婦)に寄り添い、何よりも子どもの福祉のためにこういった事業を積極的に行っていることは素晴らしいと思います。ぜひ、本市でも参考にしたいと思います。
〇何よりも子どもたちのために
今回の法改正は、我が国における離婚後の親子関係を大きく変えるものとなるはずです。それが、何よりも子どもたちのためになることを切望します。様々な理由で離婚されるご夫婦があります。それはご夫婦で決められたことであり、他人が、ましてや国や自治体がとやかくいうことではありません。それでも、子どもたちにとっては、「親」であることに変わりありません。子どもたちとご両親が一番良い仕方でかかわり合えるように、そういった社会となるように「陰ながら」そっとサポートできればと思います。デリケートな問題ですから、出過ぎることのないように慎重に取り組んでまいります。